水上善雄について
1980年、まだバリバリ昭和の時代ですね。
当時のプロ野球においては、パ・リーグのみ前後期制をとりプレーオフで決着をつける
という仕組みでした。
確か記憶の中では、「喝!」の張本様が3,000本安打を達成した年だと思います。
その頃の自分は勉強もしないやりたいことも無い・・・ただ漫然と実家で一日を過ごすだけという、何とも情けない生活をしていました。肩書は浪人生だったのですが、
単なる引きこもりですね。
そんな人間でも、プロ野球の贔屓チーム「近鉄バファローズ」がプレーオフ進出と
なれば試合を見ないわけには行きません。本当にかじりつくような感じでテレビの前に
座っていたように思います。
対戦相手は前期の覇者で川崎球場を本拠地とするロッテオリオンズでしたが、後期を
制して勢いに乗る近鉄が3タテで圧倒、めでたく日本シリーズに進出となりました。
ただ、この時にロッテのある選手のプレーを見て本当に驚き、プロ野球に新しい時代が
来たんだなあ・・・って、勝手に感動していたことを思い出しました。
その選手の名前は「水上善雄」です。このプレーオフでは、近鉄バファローズの平野光泰選手が恐るべき能力を発揮し、打率10割という手の付けようが無いくらい、何を
やっても当たりまくり・・・。全ての打球を芯でとらえ、ひとりだけ金属バットで打ったのか?と思うような打球が内外野に飛んで行きました。
そこで問題のシーンのお話になります。第一戦、平野の何打席目かで打った打球は物凄い勢いでピッチャー横を抜けるか?思ったら、そこに水上が回り込んで捕球の姿勢に入ったところでイレギュラー・・・あぁっ、強い当たりだから大きくはじくんだろうなあ
と思ったら。なんと水上は一瞬で体中の力を抜き「グローブを使わずに脱力した上半身全体で受け止める」というスペシャルな技を披露しました。なんと、ボールは本当に
スポンジに埋まったように力が無くなり、グランドにポトリと落ちて、それを拾った
水上が一塁に投げたが間に合わず内野安打となりました。
ゆっくり説明すると
①とんでもない強いボールが飛んできました。
②追いついて捕球の体勢に入り掛けたらイレギュラーバウンド!
③すぐに全身の力をゼロにして、打球に合わせほんの一瞬後ろに下がり気味のジャンプ
④結果、ボールが体に衝突することなく音もたてずにグランドに落ちる
⑤グラブ未使用のまま、ボールを拾って1塁へ送球
こんな感じですね。
硬球を受け止める際、身を守り痛みを和らげるためにも息をとめ硬い胸と腹でうける
と思いがちですが、玄人に言わせると「それじゃあ、ボールが明後日のほうにいっち
まうんだよ」とのこと。「ただ、脱力した身体で受けるのはメチャクチャ痛い!」
と断言していました。だからこそ、若い水上のプレーを皆が絶賛し、そのポテンシャルの高さから更なる一流の選手へのストーリーを創造したのだと思います。
比較の対象はたくさんおりますので、誰がどうこうというのは全くないのですが、後にも先にも、あんな凄いプレーを見たのは一度きりでした。
今でも、自分のなかでNo1ショートは水上です。姿の良い細身で長髪、やんちゃな姿は後年の西岡を彷彿させますが、西岡は野球をやっていただけでした。
水上は全く別の次元にいたように思います。今思うと、野球人だけど自由人?のような存在でしたね。
それではまた